May 25, 2015(Mon)-August 16, 2015(Sun)
Paintings: Beginnings and Endings
Preliminary Drawings and Finished Paintings: A Narrative
Museum Past
This exhibition decodes, through the preliminary drawings, sketches, and drafts for Nihonga, both what impels artists to create and the processes of trial and error by which they do so. It presents a wide range of works, from paintings by the early modern Kano School to work by modern and contemporary artists, to consider the various stories of creating a painting. Work by Kyosai Kawanabe, Seiho Takeuchi, Bakusen Tsuchida, Kagaku Murakami, Yonosuke Kikuchi, and faculty members in our Department of Japanese Painting will be displayed.
- Date
- May 25, 2015(Mon)-August 16, 2015(Sun)
- Time
- 10:00ー18:00(土曜日、特別開館日は17:00閉館)
- Closed
日曜日、祝日
※6月14日(日)、7月20日(月・祝)、8月16日(日)は特別開館- Admission
無料
- Venue
武蔵野美術大学美術館 展示室3、4、アトリウム2
- Organizer
武蔵野美術大学 美術館・図書館
※会期中、展示替えがあります。詳細は出品作品リスト(PDF)をご覧ください。
第一期:5月25日(月)― 6月20日(土)
第二期:6月22日(月)― 7月18日(土)
第三期:7月20日(月)― 8月16日(日)
このたび、武蔵野美術大学 美術館・図書館では展覧会「絵の始まり 絵の終わり ―下絵と本画の物語―」を開催いたします。
本展では、日本画における下絵や素描、草稿から、絵師や作家の創作への衝動と制作段階における試行錯誤の過程を読み解きます。
時代や画家によって異なりますが、下絵とは本画を制作するための直前に行う試し書きであり、もう一枚の絵画といえるものです。本画の麗しい筆線とは異なり、下絵からは画家の格闘の痕跡が見て取れます。
今回は、近世の絵師から、近代、現代の日本画作家までの下絵を紹介し、彼らの筆跡をたどりながら、近代日本画の成立前夜から今日の日本画の動向を展望します。
<開催に寄せて>
玉蟲敏子(監修:本学造形文化・美学美術史教授)
古代ギリシア人は、時に関してクロノスとカイロスという二つの概念を考えました。クロノスは時間、カイロスは時刻と訳され、前者は時の流れ、後者はそれを刻む機や一瞬を示します。いっぽう、時代は少し下がりますが、中国においても歴史を記述する方法として、時の流れに沿って記述する編年体や、特定の事件の端緒から結末までを掘り下げる紀事本末体という形式が考え出されました。
藝術における作家の活動や作品のあり方を見ていくと、時の流れに沿って画業をたどる一般的な方法は、クロノス的な時間の理解を編年体で表していることに気づきます。ところが、その流れに点じられた個々の作品は、流れに屹立し、あるいは流れを超えて存在し、移り変わる時に対して刻まれたカイロス的な時の構造をもっています。
しかもその点といえる個々の作品は、たとえば日本画における素描・下図・小下図・大下図などが垣間見させてくれるように、完成品にいたるまでの発想・素材探究・蒐集と総合・揺り戻し・再構築などの様々な経緯が凝集したものです。それは単にゴールに向かう直線的なものではなく、作家の「描きたい」という衝動から始まり、紆余曲折を経て完成作にいたるまでの様々な顛末を伝えているようです。ひとつの作品を深く理解するためには、紀事本末体のように〈物語〉としてとらえるアプローチが必要であることがわかってきます。
このたびの展示では、本画とされるもの以外の素描や下図・草稿などに焦点を当て、〈絵〉にいたるまでの様々な生成の〈物語〉についてあらためて考えようとするものです。線やブラッシュワークの試行錯誤の跡から作者の生々しい息づかいを感じ、行きつ戻りつする作者の人生を絵のなかに追体験することも可能でしょう。
近世の狩野家絵師たちの仕事から、近代、現代の作家まで多様な作品を集め、「下絵」と「本画」の間に繰り広げられる「絵の始まり 絵の終わり」の物語を綴っていくことにいたします。
本展は三つの会場にて、3章立てで構成されます。Ⅰ,Ⅱ章は当館のメイン会場である展示室にて、Ⅲ章は天井高のある二つの展示空間で展開いたします。
Ⅰ 絵師の時代の「下絵」「模本」
近代以前の狩野家や復古やまと絵系の川崎千虎旧蔵の模本や下図などを取り上げます。模本は厳密に言えば、作品の下図ではありませんが、伝統的な画派は模本を蓄えることによって、画題や技術、モティーフなどを伝承し、それがまた次なる創作の手本となるといった循環的な構造を持っていました。今回、展示する「狩野元信伝原作獣尽屏風」や「常信筆百獣図」には、洋の東西の動物たちが描かれています。麒麟や龍など神獣が上部に配されているなど、当時の世界観がひとつの絵に織り込まれています。さらに本学名誉教授の川崎鈴彦氏ご寄贈の絵巻物や、幕末から明治のあらゆる価値観が激変した時代に驚嘆すべき筆力で作品を作り続けた河鍋暁斎の下絵を展示いたします。
Ⅱ 近代日本画の「下絵」と「本画」
はじめに、円山四条派を中心とした近世の伝統的な画法を継承しつつ、明治以降の西洋技法を取り込み、「日本画」を新たな次元に押し上げる原動力となった京都画壇の作家の下絵と素描を紹介します。竹内栖鳳、土田麦僊、村上華岳、野長瀬晩花といった画家の下絵には、制作における格闘の痕跡が生々しく残っています。
つづいて、菊地養之助、猪巻清明、宮本十久一、酒井三良、四方田草炎といった、いわば「在野」で庶民の生活に根ざした作品を描き続けた画家の作品を展示します。興味深いことに、彼らの多くは川端玉章が東京小石川に設立した川端画学校で学んでいます。
さらには、山口八九子、福田豊四郎、奥村土牛、塩出英雄、山本丘人、毛利武彦らの作品も展示し、近代日本画の推移をたどります。
Ⅲ 現代作家の「絵が生まれるまで」
前章までの流れを受けて、現代の日本画を展望します。本学日本画学科の教員でもある内田あぐり、山本直彰、三浦耐子、西田俊英、尾長良範と若手注目作家の酒井祐二、熊澤未来子、澤井昌平、桑原理早の作品を展示します。近世から現代にいたる「日本画」に通底するものが何であるのか、変革していくものは何であるのかを感じられることでしょう。