菊地智美
美術館・図書館
人間はなぜ1対1.6180339887…という中途半端な値を黄金比とし、好み美しいと感じるのか。この本を読み進めると、自然界での黄金比・黄金角の話題が出てくる。例えば、今までの葉が出た場所を避け空いている「ちょうどよい」場所を選んで葉を伸ばす様子や、ひまわりの種の並びの規則性が、実は黄金角と関係しているというのである。永い進化の歴史を通して生物が身に着けたこの「ちょうどよさ」に「黄金」という名がついたのも納得する。
村井威史
美術館・図書館
南方熊楠についてはこれまでもすぐれた論考や研究がなされてきたが、著作や原資料の難解さからいまだに解明されていない謎も多い。本書は近年の網羅的な調査・研究で明らかになった情報を事典体に整理し、多角的視野から論じた研究書である。今をさかのぼること百年、すでにエコロジーの概念に着眼していた熊楠。その思想と活動、生涯を正しく理解することは、3.11を経験した我々にとって新しい価値観を見出す手掛かりとなるだろう。
佐久間保明
教養文化研究室
本書は終戦の4箇月前にフィリピンで戦死した若者を追跡した経験の報告。詩と漫画が大好きだったタケウチコウゾウを同年代の著者が自分なりに追いかけてみたもの。きびしい時局の戦時下にこのような魂の持ち主が生きていたのは驚異だが、対象と著者との絶妙な組み合わせで70年前の稀有な感受性がよみがえった。これまで知る人ぞ知ると言われてきた浩三が次第に知られてゆくことが喜ばしい。