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movie
#011

すべての些細な事柄

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制作者
ニコラ・フィリベール

制作年
1996年

 
久保田桂子

久保田桂子
美術館・図書館
イメージライブラリー

“他者とともに生きること”についての映画

緑に囲まれたラ・ボルド精神科診療所の庭では、患者たちと病院スタッフが毎年恒例の上演会に向けて戯曲「オペレッタ」の稽古をしている。この診療所には患者と外界を隔てる厚い壁も医師と患者を区別する白衣も無く、誰でも自由に出入りできる敷地の中で患者たちが自分のリズムで生活を送っている。映画は稽古風景とともに、彼らの生活の中の些細な時間を見つめる。ラ・ボルドの人々がお互いを尊重し合い、他者への思いやりに満ちた空間へと注がれるカメラの眼差しは限りなく柔らかい。

movie
#010

マルメロの陽光

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制作者
ビクトル・エリセ

制作年
1992年

 
田中友紀子

田中友紀子
美術館・図書館
イメージライブラリー

シネアストと画家の出会いが生んだ希有な映画

庭に植えたマルメロの樹を描こうと試みる画家アントニオ・ロペス=ガルシア。彼は樹と時間を共有し、実が熟し地に落ちるまでその変化に従い描き直し続ける。高い純度で凝縮された“見る”行為とキャンバスに集積していく時間の層。エリセは、その過程を時間の推移を捉えることができるムービーカメラによって静かに見つめ続ける。それ故に本作では時間軸において決定的に異なる絵画と映画が浸透しあい、その淡い幸福感は確実にフィルムに定着されている。

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#009

ライフライン(オムニバス映画「10ミニッツ・オールダー」より)

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制作者
ビクトル・エリセ

制作年
2002年

 
板屋 緑

板屋 緑
映像学科研究室

エリセの「ライフライン」が優れているのは、音に支えられて、幾つもの時間を併せ持っているからだ。

鳥の囀りと虫の羽音、遠くから犬の声、時折、缶を叩くような音、それらが聞こえるか聞こえないくらいまで低く抑えられ、全編に鳴っている。そこに振子時計の音が加わると、カメラはゆっくりと過去の家族の写真を見詰め、缶を叩くような音が際立つと、新聞のカットによって、その日がスペインにとって特別な日であることを報じる。そして、作業道具を叩く音と草を掃く音の反復によるリズムのうねりが、ひとつの子守唄という無時間的な夢の時間へ引き込んでいく。