2015年5月25日(月)-8月16日(日)
近代日本彫刻展 −A Study of Modern Japanese Sculpture−
ヘンリー・ムーア・インスティテュート×武蔵野美術大学 美術館・図書館 共同開催
美術館 終了
概 要|
イギリス、ヘンリー・ムーア・インスティテュートの企画による本展では、森川杜園、高村光太郎、佐藤朝山、橋本平八、横田七郎の木彫など、日本の近代彫刻の特徴を示す自然物をモチーフにした彫刻約10点を紹介する。明治以降、彫刻史において独自のポジションを形成した近代日本彫刻の意義を検証すると同時に、その作品の魅力に迫る。
※この巡回展はロンドン大学スレード校とヘンリー・ムーア・インスティテュートそして武蔵野美術大学による国際共同研究“「the Modern Japanese Sculpture Network」の一環として企画されました。当共同研究はイギリスのアーツ・アンド・ヒューマニティ-ズ・リサーチ・カウンシルから助成を頂いております。
- 会期
- 2015年5月25日(月)-8月16日(日)
- 時間
- 10:00ー18:00(土曜日、特別開館日は17:00閉館)
- 休館日
日曜日、祝日
※6月14日(日)、7月20日(月・祝)、8月16日(日)は特別開館- 入館料
無料
- 会場
武蔵野美術大学美術館 展示室5
- 主催
武蔵野美術大学 美術館・図書館
- 協力
藤井 明(小平市平櫛田中彫刻美術館学芸員)
田中修二(大分大学教育福祉科学部准教授)
エドワード・アーリントン(Edward Allington/ロンドン大学スレード校大学院彫刻科長・教授)- 監修
黒川弘毅(武蔵野美術大学彫刻学科教授)
- 助成
公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
共同企画 ヘンリー・ムーア・インスティテュート
このたび、武蔵野美術大学 美術館・図書館では、展覧会「近代日本彫刻展 ― A Study of Modern Japanese Sculpture」を開催します。
本展は、西欧の研究者が日本の近代彫刻を紹介するこれまでにない試みとして、エドワード・アーリントン教授(Edward Allington/ロンドン大学スレード校大学院)の協力のもと、リーズ(イギリス)にあるヘンリー・ムーア・インスティテュートによって企画され、同地にて2015年1月18日から4月19日まで開催されました。西欧の視座から日本の近代彫刻とその歴史を見直すことで、日英の双方が「彫刻」についての認識を深める一方で、イギリス展を契機に、西欧においても「近代日本彫刻」が新たな研究分野として確立されることが期待されます。
明治以降、西洋美術に対する理解が進む中で、彫刻とは人体をつくることであるという考え方が日本では主流になりました。しかし一方で、日本の近代彫刻は西洋彫刻を受動的に受け入れるのではなく、西洋の塑造と日本の伝統的木彫との架橋を試みながら、「彫刻とは何か」という問題を自己に問いかけることによって、独自の「近代日本彫刻」が形成されてきたと言えます。
本展(日本展)では、森川杜園(1820-1894)、高村光太郎(1883-1956)、佐藤朝山(1888-1963)、橋本平八(1897-1935)、横田七郎(1906-2000)による動植物などの自然物をモチーフとした、明治期から昭和前期までの優れた木彫作品を中心に約10点を紹介いたします。
これら日本の近代彫刻の特徴を示す作品を紹介することで、明治以降、単なる西欧化ではない独自のポジションを形成した近代日本彫刻とはどのようなものであったのか、その意義を検証します。
「なぜ日本の彫刻家たちは動物や鳥、エビ、魚の干物、石までもかたちづくるのだろう」
「なぜ普通に置けば見ることのできない作品の底面にまで、彼らはかたちをしっかりと刻み込むのだろう」この展覧会は、イギリスの彫刻家や研究者たちのそんな疑問から生まれました。人体を表現することがあたりまえの西洋彫刻を見慣れた人たちの眼に、日本彫刻のモチーフの多様さやそれらの表現を生み出す彫刻家の意欲は、とても興味深く映るようです。
本展はイギリスで初めて近代日本彫刻を本格的に紹介する機会となった展覧会を、日本で再現するものです。実験的な小さな展覧会ですが、会場に並ぶのは近代日本彫刻の選りすぐりの優品ばかりです。それらをあるがままにじっくりと味わうのもよいし、西洋の人たちの視点を借りて改めて見つめ直してみるのも刺激的な体験になるでしょう。
西洋からの問いかけは、そのまま私たち自身の彫刻に対する問いかけにつながります。「彫刻とはなにか」
「彫刻にとっての近代とはなにか」
「人間のつくる木やブロンズのかたちが、なぜこれほどに私たちを惹きつけるのか」おそらくそれらの問いに対する唯一の正しい答はありません。けれどそれを問いつづけることこそが、遠い過去から現在までの彫刻へのオマージュとなり、次なる新たな彫刻表現を生むきっかけともなるのです。
(田中 修二/大分大学 教育福祉学部 教授)
見どころ
出品作品
本展では、近代日本彫刻の特徴的な作品を中心に展示いたします。
日本の近代彫刻の形成において重要なファクターを伝えた江戸期から明治初年にかけて、奈良一刀彫の技術と表現を用いて優れた活動を示した森川杜園の「蘭奢待(模刻)」(1873年)。ロダンなどの西洋彫刻に強く影響を受けながらも、日本の伝統木彫に内在する美意識に対して自覚的に作られた高村光太郎の象徴的な2つの彫刻「手」(1918年)と「白文鳥」(1931年)。対象の外形的な形態把握に留まらず、内部構造に意識を向けて実在感のある彫刻作品を実現させた佐藤朝山の「冬眠」(1928年)や、モチーフの本質に迫る横田七郎の「干物」(1928年)と「静物」(1929年)。さらに自己の内面的な感覚にもとづき、対象の深部に内在する霊的なものを感受し、その翻刻によって彫刻の純粋化を目指した橋本平八の「石に就て」(1928年)。
これら出展作品は、西洋彫刻の影響を受ける一方で、彫刻家が自己の内部に伏流する木彫の系譜を自覚することで「個」を生起させ、そこから立ち上がる「情動」の中に彫刻のリアリティーを実践的に見い出していったと考えることができます。そのことは世界の彫刻史において独自のポジションを形成した近代日本彫刻の重要な特徴であると言えます。
本展を通じて、近代日本彫刻の意義やその魅力に迫まると同時に、まさに現代にまで通底する彫刻の真髄に触れます。
ヘンリー・ムーア・インスティテュートで開催した展覧会を基本とした展示構成です。イギリス展で展示された水谷鉄也(1876-1943)の「海老」(1926年)及び宮本理三郎(1904-1998)「海幸」(制作年不明)の作品は、日本展では森川杜園と横田七郎の作品にそれぞれ入れ替えます。また、会期最初の4週間のみ所蔵者の異なる2つの高村光太郎「手」を2点同時に展示する予定です。(注
<出展作品>
・「手」 高村光太郎 1918年 ブロンズ、木彫(台座部分)
東京国立近代美術館所蔵/台東区立朝倉彫塑館所蔵(注
・「白文鳥」 高村光太郎 1931年頃 木彫 個人蔵(フジヰ画廊)
・「冬眠」 佐藤朝山 1928年 木彫 福島県立美術館所蔵(横井美恵子コレクション)
・「石に就て」 橋本平八 1928年 木彫/「石に就て」 の原型となった石 個人蔵(三重県立美術館寄託)
・「静物」など5点 横田七郎 1928年~1929年 木彫 平塚市美術館所蔵
・(予定)「蘭者待 模刻」 森川杜園 1873年 木彫 東大寺所蔵
注) 台東区立朝倉彫塑館所蔵作品は全期間、東京国立近代美術館所蔵作品は5月25日から6月20日までの展示を予定。いずれもブロンズ部分は「真土(まね)鋳造法」によるもの。高村光太郎によって作られたと推定され木製台座の形状は異型で、この2作品の同時展示は初の試みとなる。