2019年9月2日(月)-11月9日(土)
日本・ポーランド国交樹立100周年(1919〜2019年)記念事業
スタシス・エイドリゲヴィチウス:イメージ——記憶の表象
美術館 終了
ポーランド共和国と日本の国交樹立100周年を記念して、同国を代表するアーティスト、スタシス・エイドリゲヴィチウスを紹介する。本展では彼の50年に及ぶ活動の中から、細密画、パステル画などの絵画作品を中心に、蔵書票、絵本、ポスター、さらに写真や演劇など多角的にスタシス作品を展観する。人物像をめぐって、多様なメディアに描き出されたスタシス作品のイメージ—「記憶の表象」をたどり、その作品の本質と魅力にふれる。
- 会期
- 2019年9月2日(月)-11月9日(土)
- 時間
- 10:00-18:00(土曜日、特別開館日は17:00閉館)
- 休館日
日曜日・祝日、10月24日(木)、28日(月)
※9月16日(月・祝)、23日(月・祝)、10月14日(月・祝)、27日(日)、11月4日(月・祝)は特別開館- 入館料
無料
- 会場
武蔵野美術大学美術館 展示室3・4・5、アトリウム2
- 主催
武蔵野美術大学 美術館・図書館
企画 スタシス・エイドリゲヴィチウス展実行委員会
特別協力 駐日ポーランド共和国大使館、ポーランド広報文化センター
後援 駐日リトアニア共和国大使館
監修 今井良朗(武蔵野美術大学 名誉教授)、寺山祐策(武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科主任教授)
リトアニア出身で、現代ポーランドを代表するアーティスト、スタシス・エイドリゲヴィチウス(1949 − )は、絵画、版画、挿絵、彫刻、写真、舞台など多方面で制作活動を展開し、国際的に活躍してきました。
これまで日本においては、ポスターや絵本を中心にスタシス作品が紹介されてきましたが、本展では彼の50 年以上に及ぶ活動の中から、スタシス本人が作品選定に関わり、日本で展示される機会の少なかった最初期の写真作品やエクスリブリス(蔵書票)、ミニアチュール(細密画)をはじめ、絵本の原画やドローイング、演劇など広範な作品群を展示し、その創造領域の広がりを展観します。特に、スタシス自身の「記憶の表象」として描かれた人物像をめぐって、多様な表現メディアに描き出された故郷リトアニアの〈原風景〉や、ポーランドで確立した〈演じる〉〈覆う〉などの〈マスク〉を介した比喩的表現に焦点をあて、作品の根底に流れるスタシス自身の「記憶」をたどります。「リトアニアの土とワルシャワの風を混ぜ合わせる」* とも言われる独自の技法を駆使した表現と、その創造の根底に流れる記憶の表象を探求し、スタシス作品の魅力の本質に迫ります。
*グラフィックデザイナーの田中一光が2002年にスタシスに贈った言葉より
見どころ
Ⅰ 窓の向こう スタシスの創造の原点である故郷リトアニアの地で生まれ育った頃の「記憶」。そこには、社会的不安のなかにありながらも、美しくあり続けた故郷の風景と家族の姿が存在し、その記憶はスタシスの世界観を読み解くキーワードとなっています。展示では、初期作品として、1960 から80 年代に撮影された故郷の風景や家族との暮らしが写し出された写真15 点、スタシス作品に通底するイメージの源泉とその幻想的な魅力が小さな画面に凝縮された1970 年代のテンペラによるミニアチュール(細密画)131 点を紹介します。フレーム(=窓)の向こうに広がるスタシスの原風景(=立ち返る場所)を探ります。
Ⅱ 紙の上の対話 スタシスにとって、ドローイングは記憶をとどめたり、蘇らせたりする上で、大切なツールです。日常のあらゆる事象の「記憶」が表出されたドローイングは、すべての制作の端緒であり、スタシスが何を思考し、記憶に留めようとしているのかが現れています。展示では、これまでほとんど公開されていない、スタシスが常に持ち歩いてきたスケッチブック64 点を展示します。また、アイデアを醸成するプロセスを収めたパステルによるドローイング150 枚以上を合本したダイアリーブックなどをスライドで閲覧できるコーナーを設けるほか、様々な表現方法を模索する様が垣間見えるようなドローイング128 点とコラージュ作品25 点を紹介します。
Ⅲ フェイスあるいはマスク 「フェイス/マスク」はこれまでスタシスが描いてきた一貫したテーマです。空想の世界や見たことのない情景を描きだすなかで、顔は心情を表現する重要なモチーフであり、人間の内面を表すメタファーとして現れます。展示では、スタシスの代表的な技法でもあるパステル画を中心に、顔の切り抜きや、実在の人物の顔を原型につくられたマスク、当館所蔵のポスター作品を展示します。メディアを横断して様々な形態へと展開する作品を通して、人間の日々の営みと背景にある社会のメタファーとしてフェイスあるいはマスクに現れる顔の表情、その豊かな想像力による表現の展開を探ります。
Ⅳ イメージと言葉 イメージと言葉とが共生する絵本の創作においても、その物語のなかでスタシスは独自の解釈に基づいた表現を展開しています。展示では、1970 年代から90 年代までの代表的な絵本作品を中心に、パステル、水彩で描かれた原画27 点を紹介するほか、手に取って絵本を読むことができるコーナーも設けます。また、エクスリブリス(蔵書票)は、スタシスの創作活動の原点であり、国際的アーティストとしてのキャリアを築く礎となりました。初期のリノカット、エッチングから、1971 年以降はアクアチント、メゾチント、ドライポイントなどへと展開していく技法の変遷をたどり、自由な表現を求めて創作を展開したスタシスのエクスリブリス215 点を紹介します。一枚の紙に描かれたスタシス独自の物語の世界が広がります。
Ⅴ 遍歴する身体 身体表現への展開は、独創的な発想で創作領域を自在に広げていくスタシスの創造力を象徴しています。人間のあり方や世の中のあり様を一つのメタファーとして語ってきたスタシスは、直接的な身体表現の可能性に惹かれ、記憶をめぐる新たな表現の場を見出します。展示では、舞台美術から演出まで総合美術として手がけた、故郷を題材にした演劇『白い鹿』(1993 )と『木の人間』(2007 ) の映像を上映するほか、2000 年頃から制作されたマスクと身体をテーマにした写真作品を紹介し、スタシスの人間をめぐる眼差しの意味を考えます。
出品作家紹介
スタシス・エイドリゲヴィチウス
1949 年リトアニア共和国に生まれる。1964–1968 年リトアニア、カウナスの応用美術専門学校で皮革デザインを学んだのち、1968–1973 年ヴィリニュス美術大学で絵画やグラフィック・アートを学ぶ。在学中の1973 年マルボルク国際蔵書票ビエンナーレで優勝メダルを獲得、1979 年ブラティスラヴァ国際絵本ビエンナーレで金のりんご賞を受賞、1980 年ワルシャワに移住。1984 年ワルシャワ国際ビエンナーレでの受賞をはじめ以後も各国で受賞を重ねる。1986 年シカゴ、ロサンゼルスでの個展のほか、1988 年国立ヴロツワフ美術館、1993 年ヴィリニュスモダンアートセンターでの回顧展など各地で個展を開催。日本においても、1988 年ギンザ・グラフィック・ギャラリー、1990 年クリエイションギャラリーG8 での個展のほか、1994 年世界ポスタートリエンナーレトヤマでの金賞受賞、同年、ファーレ立川での彫刻作品制作や、2000 年越後妻有トリエンナーレへの参加など多数の活動歴を持つ。2019 年ポーランド共和国の繁栄に貢献した人物に対して贈られるコマンドール十字勲章を受賞。世界各国を舞台に活躍の場を広げ、絵画、版画、挿絵、彫刻、写真、インスタレーションなど、多方面で創作活動を展開している。