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大辻清司アーカイブ所蔵フィルム目録シリーズ
『大辻清司アーカイブ フィルムコレクション』 第7巻『太陽の知らなかった時』を刊行しました

掲載日:2023年5月18日(木)

総合 美術館 図書館

このたび、武蔵野美術大学 美術館・図書館は、「大辻清司フォトアーカイブ」所蔵フィルムの目録シリーズ『大辻清司アーカイブ フィルムコレクション』の第7巻『太陽の知らなかった時』を刊行しました。
写真家大辻清司(1923―2001)の創作活動をほぼ網羅する、当館所蔵の特別コレクション「大辻清司フォトアーカイブ」。2008年の寄贈受入より整理研究に着手し、その成果を「大辻清司フォトアーカイブ:写真家と同時代芸術の軌跡1940―1980」(2012)や、プリント作品1,613点に関する目録『大辻清司:武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵作品目録』(2016)、当館サイト内の館蔵品を紹介するデータベースなどで公開してきました。
2017年からは『大辻清司アーカイブ フィルムコレクション』と題する撮影フィルム原板に関する目録シリーズの刊行を開始。常に写真表現を探究し、写真の可能性を探っていた大辻の撮影フィルムに記録された各コマには、卓越した撮影技術と造形的思考に裏打ちされた表現が内包されています。それらのイメージは必ずしも紙焼きされたプリント作品として存在するわけではありませんが、フィルムを1コマ単位でつぶさに検証することは写真表現の在り方を探る契機となり得ます。

第7巻『太陽の知らなかった時』 (2023年3月刊行)

本巻では、大辻の創作活動の初期にあたる1950年代の知られざる4つの作品を特集します。いずれも複数枚で構成する“組写真”として発表された作品です。
①《太陽の知らなかった時》――1952年8月、瀧口修造が企画と人選を担当する東京・神田のタケミヤ画廊での、小川義良との「写真二人展」にて発表した10点組の作品
②《海のギャラリー》《砂上のあしあと》――『美術手帖』1956年8月号の特集「海と造形」で発表した作品(《海のギャラリー》は瀧口修造の文・構成による)
③《無言歌》――1956年12月、東京・銀座の小西六ギャラリーで開催されたグラフィック集団の第4回展「フォトグラフィック・コンクレート」にて発表
④《無罪・有罪》――吉岡実の詩、大森忠行の構成、大辻の写真により『現代詩』1959年3月号に掲載された10点組の作品
これらの作品はいずれも発表当初のプリントは現存しておらず、また初出時の詳細はわかっていません。このような背景によりこれまで十分な検証がなされていませんでした。そこで今回、発表当時の記録(展示会場写真、展評、掲載誌など)と現存するフィルム原板との比較検討をおこなったところ、発表作の多くで画面のトリミングが施されていることが判明しました。本巻のハイライト頁では、複写採録したフィルム原板の画像の上にトリミング位置の矩形を示すことで、初出時の作家の意図を視覚化し、その本質に迫ります。
(巻頭には写真評論家大日方欣一氏による論考を収録)


『大辻清司アーカイブ フィルムコレクション』の既刊

  • 第6巻『クロス・トーク/インターメディア』(2022年3月刊行)
  • 第5巻『具体』(2021年3月刊行)
  • 第4巻『1975』(2020年3月刊行)
  • 第3巻『アトリエ訪問』(2019年3月刊行)
  • 第2巻『人間と物質』(2018年3月刊行)
  • 第1巻『舞台芸術』(2017年3月刊行)

「大辻清司アーカイブ」に関する図録や目録は、少部数に限り販売しています。カタログ通信販売ページはこちらより。


「大辻清司フォトアーカイブ」とは

大辻清司は、実験精神溢れる写真表現を追求し、また美術、音楽、演劇、ダンス、テクノロジー、建築、都市の移り変わりといった同時代の多様な動向に立ち会い、独自の視点からドキュメントを撮り続けました。当館では、大辻が半世紀にわたって制作したプリント作品とそのフィルム原板、作品が掲載された出版物、直筆の制作メモや原稿、撮影機材・暗室道具などからなるコレクションにより「大辻清司フォトアーカイブ」を形成し、2008年の寄贈受入から継続して整理・研究に取り組んできました。作品そのものと周辺資料の包括的な検証によって制作過程を追うことは、写真家が何を見つめ、どのように対象に迫ったのか、その関心の在りどころと思考を明らかにする重要な足がかりとなります。とりわけフィルムに記録された撮影コマの連続からは、作品の背景にある試行の跡や、被写体との間に醸されていた機微までもうかがうことができます。


当館所蔵「大辻清司」プリント作品

当館が所蔵する大辻清司のプリント作品1,613点の作品データを公開しています。
(※ただし作品画像は大学キャンパス内の限定公開)


展覧会「生誕100年 大辻清司:眼差しのその先――フォトアーカイブの新たな視座」
(武蔵野美術大学美術館、2023年9月4日[月]―10月1日[日])

2023年は大辻清司の生誕100年の記念年です。また、当館における「大辻清司フォトアーカイブ」事業の15年の節目でもあります。本展ではこれまでのアーカイブ研究の成果を軸とし、大辻清司とはいかなる写真家だったのか、あらためてその真髄へと接近します。オリジナルプリントとフィルム原板に残された未発表のイメージ、印刷メディア上での仕事、執筆テキスト――。多彩な活動歴の中で広がりを見せた写真家大辻の実践の数々を互いに連関しあうものとして捉える構成は、本展を特徴づける視座といえるでしょう。そしてその試みはまた、アート・アーカイブのひとつの在り方を示し、その先に何を見出すことができるのかを探る行程の一歩でもあります。

プレチラシPDFダウンロード


大辻清司(おおつじ・きよじ)

写真家。1923年東京生まれ。1940年代末にシュルレアリスムの傾向を色濃く窺わせるオブジェの写真作品を発表し創作活動を開始。1950年代にはインターメディアの前衛芸術グループ「実験工房」に参加。さまざまな芸術ジャンルのアーティストと交流し、20世紀末まで約半世紀にわたり制作と思索の営みを続けた。同時代芸術の貴重かつ膨大なドキュメントを撮影したことでも知られる。長年携わった写真教育の場でも重要な業績を残し、高梨豊や畠山直哉をはじめ多くの門下を輩出した。また、写真というメディアの特性と新しい表現への可能性を考察した優れたエッセイを数多く執筆。主著に『写真ノート』(美術出版社、1989)。代表作に《オブジェ》(1950)、《美術家の肖像》(1950)、《陳列窓》(1956)、《無言歌》(1956)、《東京むかし》(1967)、《日が暮れる》(1975)ほか。2001年に逝去。享年78。

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