2020年9月21日(月)-10月24日(土)
イラストレーションがあれば、
美術館 終了
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複製技術やメディアの発達とともに発展したイラストレーション。特に日本ではグラフィックデザイン勃興期である1960年代以降、多彩な表現が生まれ、イラストレーターの役割や「イラスト」という略語が社会に浸透した。本展では、挿絵版画や手描き原画、書籍や雑誌、ポスターなど、19世紀末から現代までのイラストレーションをめぐる作品を展観する。著作者や依頼主との関係、作品性のありか、特有の表現法など「イラストレーション」を多角的に考察し、その表現の広がりと魅力を再発見する。
- 会期
- 2020年9月21日(月)-10月24日(土)
- 時間
- 10:00-18:00(土曜日、祝日は17:00閉館)
- 休館日
日曜日
- 入館料
無料
- 会場
武蔵野美術大学美術館 展示室4・5
- 主催
武蔵野美術大学 美術館・図書館
- 監修
赤塚祐二(武蔵野美術大学 造形学部油絵学科 教授/武蔵野美術大学 美術館・図書館長)
※新型コロナウイルス感染症の今後の拡大状況に応じて会期が変更となる場合があります。
イラストレーションと聞き、何を想像しますか。安西水丸の作り出すポップで爽やかな世界、宇野亞喜良の描く繊細で甘美な情景 − みなさんの頭のなかには、様々なイメージが浮かぶのではないでしょうか。
西洋における〈illustration〉は、印刷技術の発展とともに書物や雑誌と深く結びつき、社会や文化を映し出しながら歴史を重ねてきました。日本では1960年代以降、イラストレーターの活躍をきっかけとして独自の発展を遂げ、今日的な〈イラストレーション〉の概念が一般に定着したといえます。美術評論家の中原佑介が、この広大なイラストレーションという領域を考える上で、なによりもまず「世界地図」を「世界のイラストレーション」と例に挙げたことは、少し意外なことに感じるかもしれません。
本展では当館コレクションより、中世の彩飾写本や16 世紀の世界地図、現代のポスターまで、イラストレーションをめぐり幅広い作品を展観します。現代の〈イラストレーション〉の源泉ともいえる〈illustration〉の実体、日本の多彩な〈イラストレーション〉を生んだイラストレーターの存在を探りながら、その可能性を紐解きます。
見どころ
1章 イラストレーションを考える
紀元前3世紀頃に創設されたアレクサンドリア図書館には、「挿絵入り書物(illustrated book)」が存在していました(※1)。この史実は、イラストレーションの歴史がはるか古来より紡がれつづけてきたことを教えてくれます。
中世以降、西洋における〈illustration〉は、印刷技術の発達や出版文化の隆盛と不可分でした。図鑑のなかの細密な解剖図は有効な情報伝達手段として、小説に添えられた挿絵は読者のイマジネーションを喚起するものとして、書物を彩ってきました。折々の絵画様式と時に呼応し、生活や社会の流行に密接につながった多彩な表現は、時代の精神や思想を映し出す鏡ともいえるでしょう。
その歴史の先に日本に受容された〈illustration〉という言葉は、1900年代にはすでに「図解」や「挿絵」と訳出されていました(※2)。その後1960年代以降には、〈イラストレーション〉というカタカナ語として一般化してゆきます。〈illustration〉の受容から〈イラストレーション〉定着への変遷のなかで、日本におけるイラストレーションは一言では言い尽くしがたい、豊かで複雑なイメージを孕んでいったのかもしれません。
美術評論家の中原佑介は「世界地図は架空の1 点から光をあてられた全世界のすがたである。それは明るみにだされた世界、つまり、世界のイラストレーションなのである」(※3)と記し、世界地図からイラストレーションを考察しています。1章では、イラストレーションの語源として挙げられる「明るみにだす」という言葉を手がかりに、世界地図や百科全書、挿絵本など、15世紀から20世紀初頭までの書物を中心にその機能と表現に触れ、〈illustration〉の実体を探ります。そこから、わたしたちの親しむ〈イラストレーション〉の源泉が見えてくるかもしれません。
※1:鶴岡真弓『ケルト/装飾的思考』筑摩書房、1989年
※2:神田乃武等編『新訳英和辞典』三省堂、1902年 など
※3:中原佑介「イラストレーションと文化の顔」『見ることの神話』フィルムアート社、1972年
2章 イラストレーターを考える
イラストレーションという言葉と同様に、イラストレーターという存在も私たちにとって馴染み深いものです。今日的な〈イラストレーション〉の概念はイラストレーターという「新種の職業」の登場によって初めて認識された(※4)と語られるように、その存在が広く知られるようになったのは、そう遠くない昔のことといえます。2章では、日本におけるイラストレーターの誕生と広範な領野へと展開する表現の軌跡を概観します。美術(ファインアート)に対する自身の立ち位置を問うた戦前の図案家、商業美術家団体による先駆的な活動、戦後復興期、急成長する社会との関係を築き上げた日本宣伝美術会(日宣美)によるグラフィックデザインの興盛はイラストレーター誕生の土壌を耕しました。その後1964年に発足する和田誠、宇野亞喜良、横尾忠則ら「東京イラストレーターズ・クラブ」の際立った活動の数々、黄金期といえる70年代以降に立ち起こる「スーパーリアル」「ヘタうま」といった多様なスタイルは、挿絵や図案、モダンデザインとは一括りにできない、今日的な〈イラストレーション〉の開花を物語ります。
社会変動の大渦の中、「アルティザン(職人)」「アーティスト(作家)」の二つの顔を持ち合わせる存在として、自身の立ち位置を模索し続けてきたイラストレーターたち。展示では、各時代の描き手による証言や当時の批評といった言説からその意識の変遷を辿るとともに、ポスターや雑誌、機関誌やレコードまで、多彩なメディアを通して、彼らが切り拓いた〈イラストレーション〉の可能性をご覧いただきます。
※4:榎本了壱「特別な50年 デザイン イラストレーション アート」『日本のイラストレーション50年(ggg Books 別冊-1)』ギンザ・グラフィック・ギャラリー、1996年
出品作品
展覧会場風景
撮影:いしかわみちこ