高浜利也
版画研究室
ドイツ文学者の池内紀が恩地孝四郎の評伝を上梓した。恩地といえば創作版画運動の中心人物だが、彼の多岐にわたる活動周辺の交遊関係をくまなく描写することで、大正から昭和初期にまたがる出版文化の爛熟を余すところなく俯瞰できる事実に驚きを禁じ得ない。恩地、池内両者が抱く本や版画、紙、装丁、活字など出版に対する温かいまなざしこそ、日本のつくり手たちが今、拠りどころとすべき宝石箱なのだとあらためて考えた。
伊藤誠
彫刻学科研究室
アルファベット順にならんだ数々の物語は目次だけでも想像力をかき立てる。アイルランド装飾写本のように複雑な入れ子状に関連し展開する様々な物語とその絶妙な語り口。延々と続く薔薇の品種の羅列も「物語」にしてしまうイマジネーションの越境。カモノハシのように分類不可能にしてつきない興味の対象物。面白くてたまらないのだが何がなんだかさっぱり分からないという快感を知るべきだ。
著者
干宝著
竹田晃訳
出版者
平凡社ライブラリー
出版年
2000年
伊藤誠
彫刻学科研究室
中国六朝時代の説話集。「志怪小説」と呼ばれるジャンルで、いわゆるフィクションであるため「唐代伝奇」や「聊齋志異」とならんで評されるのだが、異なるのは根本のリアリティがしっかりしている事だ。つまりエンタテイメントよりも「本気」の記録。フィクションとノンフィクションの垣根がないのだ。どこから読んでもいいのだが、短い記述の中に底知れない世界がある。